精神障害や知的障害を扱ったコミック

私が子どもの頃、コミックとその他の書籍は明確に区別されていました。コミックは主に空想的な内容で、その他のものは一般的な書籍として分類されていました。しかし、2000年頃から変わり始めました。本来ならエッセイや一般的な書籍として出版されそうな内容が、コミックの形式で登場するようになったのです。文字だけでは表現しきれない内容が、イラストと共に具体的に示されるようになったわけです。

これらの中には、精神障害(主にASD)や知的障害を取り扱った作品も含まれています。ただし、これらのテーマを取材や知識ベースから作り上げると、表面的なものになりがちです。実際に、そのような作品は少なくありません。そんな中で、しっかりと描かれていると感じる作品を3つ紹介したいと思います。

アスペル・カノジョ

新聞配達で生計を立てている同人作家・横井の家へ鳥取から突然やってきたのは、「ファンだ」という斉藤さん。彼女は見ているもの・感じている事・考えやこだわりが、他の人と違っていて……。「生きにくい」ふたりが居場所を探す、ふたり暮らし物語。

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この作品のタイトルにある”アスペルガー”は、アスペルガー症候群を指します。これは現在では古い診断名となり、現代では自閉症スペクトラム障害(DSM-5)の一部とされています。アスペルガー症候群は、自閉症の特徴である対人関係の障害やパターン化した興味・活動が見られる一方で、言葉や知的な発達の遅れは特に見られないことが特徴です。

ストーリーは、発達障害を診断された斉藤さんという女性が漫画家の横井さんを訪れるところから始まります。そして、同棲することになり、その生活を通じて斉藤さんの障害について、障害が生じる生きづらさ、過去の経験などが描かれます。横井さんは斉藤さんのような人と向き合った経験がなかったが、彼女との生活を通じて理解を深めていきます。

この作品では、斉藤さんのASDによる性格が日常生活や対人関係をどのように難しくするか、また就労をする際にどのような困難を引き起こすかがよく描かれています。対人関係の難しさから、過去にいじめの対象となったエピソードもあります。この点については少し話が逸れますが、ASDや他の発達障害を持つ児童がいじめの対象となりやすいことを示す研究があります(後述)。

初恋、ざらり

「必要とされると、拒めない…」
上戸有紗は、「コレ」でしか役に立てないと、求めてきた男性につい体を許してしまう。
軽度の知的障害をもつ自分に自信が持てない有紗は、優しくしてくれるバイト先の社員・岡村さんが気になり始めて・・・。
不安定な二人の行き先から目を離せなくなる、切なくも愛おしい恋のものがたり。

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この作品は、療育手帳を持った(知的障害)を持つ有沙さんと彼女のバイト先の岡村さんとの恋愛物語です。先ほどの「アスペル・カノジョ」では、突如として同棲生活が始まりますが、二人は最初からなにか(主に肉体関係)関係を持っていたわけではありません。一方、この漫画では有沙さんと岡村さんの関係が始まった後に、岡村さんが有沙さんの障害を知り、それに苦悩するという展開が描かれています。

また、この作品には障害を持つ子の親も登場し、過去の困難や、子どもがパートナーを見つけたときに親がどう感じるかなどが描かれています。これらの描写は読者に深い思索を促します。

作者のざくざくろさん自身がASDを持っているとプロフィールに明記しており、また1巻の巻末にて、友人の同様の境遇を見てこの作品を思いついたと語っています。

両作品とも最終的にはハッピーエンドとなります。障害を持つ本人とその周囲の人々の苦悩と、それを乗り越えていく過程が見事に描かれています。

ただし、私が一抹の不安を感じる点として、どちらの作品も主人公が若く、見た目も魅力的な女性で、対する男性が内向的なキャラクターであるために物語が成り立っていると感じる点です。もし主人公が障害を持つ男性であった場合-つまり、わが家ですが…-、彼の物語にも同じような希望の光があったのでしょうか? と思ってしまいます。

なおりはしないが、ましになる

発達障害について、笑いながら一緒に学ぼう

あなたのその“つらい”気持ちも、
読めばきっと“ましに”なる。

長年カレー沢氏を苦しめていたある悩み…
それは「発達障害」についての悩みだった。

発達障害への気づき、検査、通院、投薬など、
ありとあらゆる出来事を、
(おそらく)業界一片付けが苦手な漫画家・カレー沢が華麗に描き上げる!

一つのことしかできない、相手の顔を覚えられない、空気が読めないなど、
様々な「発達障害」にまつわるエピソードを、
カレー沢節のシュールな笑いで包んでお届けいたします。

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先の2作品は架空の物語でしたが、この作品は作者であるカレー沢薫さん自身の経験や感覚をコミック化したものです。作者の2ch風のテンポの良い描写により、読み進めるのが楽になっています。対人関係の難しさや整理整頓の苦手さなど、これらの問題は治療を受けたからといって即座に解決するわけではありません。しかし、問題の原因が理解でき、対処法のアイデアが生まれることで、行動に移すかどうかは別として、心情的には楽になるということを、作者は何度も言及しています。そして、それがこの作品のタイトルにも反映されています。

この作品で、作者は『個人的に発達障害は「グレーゾーン」が一番つらいんじゃないかと思います。』と言っています。

発達障害の「グレーゾーン」とは、特性や傾向はあるものの、発達障害と診断されるには至らない状態を指す言葉です。

https://www.nhk.or.jp/toyama-blog/100/478262.html

このフレーズ、発達障害を抱える親にはとても突き刺さるのではないでしょうか。もちろん、重度だから楽ということは絶対にありえません。ただ、グレーゾーンの場合、『微妙な診断結果だから(本人は)スッキリできないし』、『周りにも理解されづらい』。結果、『理解も支援も得られず、自分だけかが違和感を抱えて、孤立してしまう』。まさに、これです。そのため、親はどうしたらいいのだろう?と右往左往、苦悩するわけですね。

ASDや他の発達障害を持つ児童がいじめの対象となりやすい話はまた別記事で。

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