最近、岡田尊司(医学博士・精神科医)の著書『愛着障害』を読みました。300ページ以上の分量がありますが、偉人と称される人々の生き方が数多く引用されており、まるで小説を読んでいるかのような感覚になります。障害そのものを理解し、その対策を知りたいと思っている人にとっては、正直なところやや煩わしいかもしれません。そのため、愛着障害についての情報とその対策について、以下に抜粋して記載します。
愛着の定義とその影響範囲
安定した愛着スタイルを持たないために起きる行動面・心理面での障害を指す。愛着スタイルは、対人関係だけではなく、感情や認知、行動に幅広く影響する。
愛着が安全基地として機能することで、外部への関心(探索行動)ができるようになる。安全基地として十分機能していないと、知的興味や対人関係で、無関心や消極的になりやすい。
過保護になりサポートを与えすぎると、子どもの主体的な探索行動を阻害する。この場合、依存的で不安の強い子どもを育てる可能性がある。
安定した愛着がない場合、ストレスや脅威に対して、適切な行動を取るのが難しくなる。
愛着の臨界期と不安定化の2要素
生後6ヶ月から1歳半までが重要。この期間を臨界期と呼ぶ。この期間に愛着を不安定化させる要素は2つ。
1つは、愛着対象がいなくなる場合。死別や離別など。もう1つは、親の不安定な反応(書籍では虐待やネグレクトを例として挙げてる)。愛着対象がいなくなった場合、脱愛着が生じて禍根が残る。
愛着パターン
子どもの頃の愛着スタイルを愛着パターンと呼ぶ。安定化していないために、変化しうる。
愛着行動は、ストレスや脅威が高まった状況で、愛着システム(愛着を担う脳内の仕組み)が活性化された結果、誘発される。ストレスや脅威を感じても、愛着行動がほとんど見られないことがあり、これは愛着システムの不活性化が起きていると考えられる。
愛着パターンが積み重ねられた結果、成人するまでに愛着スタイルが定着する。愛着スタイルは恒常性を持っており70~80%の人は生涯にわたり維持する。
愛着スタイル
愛着パターンが定着した場合のカテゴリは4つ。
不安型の3つは、それぞれ以下のような特徴を持つ。
回避型愛着スタイル
特性と対人関係は以下のような傾向がある
- 親密さを回避しようとし、心理的にも物理的にも、距離をおこうとする。
- 人に依存もしなければ、人から依存されることもなく、自立自存の状態を最良とみなす
- 情動的な強い感情を抑えるのが得意
- 感情的な反応の認知において鈍感
- 自己表現力が育ちにくく、微妙なニュアンスを正確に理解することが苦手
- 仕事や趣味などの領域で自己主張する傾向が強い
- 面倒くさがり屋で、厄介なことは後回しにし、お尻に火がつくまで放っておく
恋愛は以下のような傾向がある
- 恋愛に対して淡白、相手の絆を守ろうとする意志や力に乏しい
- パートナーの痛みに無頓着
- 頼られることは面倒事であり、面倒事を持ち込まれることは怒りを生む
不安型愛着スタイル
特性と対人関係は以下のような傾向がある
- 始終周囲に気をつかう
- 相手の表情に対して敏感で、読み取る速度は速いが、不正確であることが多い
- 対人関係での関心事は「人に受け入れらるかどうか」「人に嫌われていないかどうか」
- 少しでも、相手が拒否や否定の素振りをみせたりすると、激しい不安にとらわれ、それに対して過剰反応をしてしまいやすい
- すぐ恋愛モードになりやすい
- 親密な関係になったとき、急激にもたれかかってきて、相手のすべてを独占したいという傾向が顕著になる
- 過剰確認行動や、猜疑心・嫉妬心が強い
- ネガティブな感情や言葉が飛び火しやすい。怒りや敵意の矛先が他者だけではなく、自分自身にも向けられやすい
愛着障害の克服-1.安全基地を手に入れる
安全基地となる存在に問題があるので愛着障害が起きる。親が不安定な愛着問題を抱えていることが多い。親が子どもに起きた問題を機に、自分から子どもへの関わり方を変えられればよいが、難しいことが多い。そのため、安全基地となりうる一時的にまたは長期に渡って第三者が肩代わりすることが必要。そして、愛着を築き直す体験をし、不安定型愛着を安定型愛着へ変えていく。
良い安全基地であるためには、本人自身の主体性が尊重され、彼らの必要や求めに応えるというスタンスが基本である。条件は次の5つ。
- 安全感を保証できる
- 感受性・共感性がある:愛着の問題を抱える人が何を感じ、何を求めているのかを察し、共感すること
- 応答性:相手が求めているときに、応じてあげること。相手が求めていないことや、求めていないときに余計なことをするのも、応答性から外れている
- 安定性:相手の求めに応じたり応じなかったりと対応が変わるのではなく、できるだけ一貫した対応をとること
- なんでも話せること
愛着障害の克服-2.愛着の傷を修復
幼いころの不足を取り戻す。幼い子供に戻ったように、駄々をこねたり、わがままを言ったり、親を困らせたりする時期にしっかり付き合うことで、次第に安定を回復する。人を信じることができるためには、自らの価値を肯定してもらえるという体験が重要なのである。子供の頃の不足を取り戻したり、周囲に受け入れられるといった共感的、体験的なプロセスが必要。
加えて、言葉を介した、認知的なプロセスが必要。子供の頃に傷ついた体験は、たいてい心の隅に押しやられ、はっきり言語化されないまま、もやもやとした記憶として心に巣食っている。言語化の不十分な情動的記憶が各種問題を起こす。ネガティブな情動とともに、言語化して、吐き出しながら、自分の生い立ちや傷ついた体験と向き合い、封印してきた過去を整理し、統合し直す作業を行う。
過去の傷と向かい合っていくうちに、怒りが赦しにかわっていく。過去との和解である。
愛着障害の克服-3.役割と責任を持つ
親密さをベースとする愛着関係というものは、距離がとりにくく、愛着障害を抱えた人にとっては、もっとも厄介で難易度が高い。そこで、社会的な役割とか職業的な役割を中心とした関係は、割り切りがしやすい。社会的役割、職業的役割を持ち責任を果たすなかで、対人関係の経験を積み、愛着不安や愛着回避の克服の訓練となる。
どんなに小さなことでもいいから、自分なりの役割をもち、それを果たしていくということが大事である。気軽に取り組めることから始める。その過程で、自己否定感を払拭し、「自分にもできることがある」という肯定的な気持ちを回復することが必要。「良いところ探し」をする。どんなにひどいことがあっても、それをすぐに否定するのではなく、「何かいいこともあるはずだ」と視点で考え、受け止める。
自分が自分の「親」になる
親の保護や導きも期待できず、親代わりの存在も身近にいないという場合、愛着障害を克服するための究極の方法は、「自分が自分の親になる」ということである。
総括
発達障害と診断されたが、愛着障害であるケースが多いと述べているにもかかわらず、その具体的な割合については一切触れていません。愛着障害は環境から起こるとし、一度定着すると修正が難しいとも指摘しています。近年、発達障害は育て方や本人の努力不足ではなく、生まれつきの脳機能の障害が原因とされる風潮がある中で、この指摘は衝撃的です。
発達障害の原因は十分に解明されていませんが,親の育て方や本人の努力不足ではなく,生まれつきの脳機能の障害が原因であるとされています。物事の感じ方やとらえ方が異なっているため,とても得意なことがある反面,ちょっとしたことがすごく苦手という偏りがあります。
https://www.pref.miyagi.jp/soshiki/kodomo_s/hattatu.html
さらに、克服には現環境では難しいとも述べており、現在進行形で発達障害の子を抱える親としては、深く悩む内容です。参考程度に読むのがちょうどいいのではないかと考えます。
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